大江戸吟行会清澄庭園お月見連句会随聞記 林転石

9月18日大江戸吟行会と源心庵の会はコラボ企画として東京都江東区の清澄庭園の逍遥とお月見連句会を開催した。清澄庭園は江東区清澄にある回遊式林泉庭園で一説には紀伊国屋文左衛門の別墅とされていた。その後久世大和守の下屋敷となっていたが、明治期に入り岩崎財閥の有すところになり、関東大震災を経て東京市に寄託されたものである。

 往時この苑池の水は隅田川の流水を引き込んでいて、その干満により池の景色の変化が楽しめたという。また南西の区域には巨大な富士塚がある。江戸期には富士講といい富士山に登る行事があり、参拝者は山頂の火口付近の火山岩を持ち帰り、

それを居住近隣の社寺に供えて積み重ね、富士塚と称して信仰の対象としていた(宇田川氏)。この庭園にあるものもその一つであり、山腹としていた辺りにサツキ、ツツジを植え富士にたなびく雲を表現していたという。

 特に此の庭の特徴は各所に配置されている庭石の数々であり、国内各地から様々な種類の名石を集めてきている。伊豆石、紀州青石、佐渡赤玉石、備中御影石、生駒石などであり、この石により橋、磯渡、枯滝の景色を構成している。これは岩崎家所有の時代にその運航する汽船によってそれぞれの産地から運び入れたものであり、庭園全体があたかもひとつの石庭のごとき景観を呈している。

我々が連句の会場としたのは泉水の南側にある涼亭と称する数寄屋造りの建物で明治期に岩崎家が創建したものを昭和60年に改築したものである。眺望は抜群で泉水越しに前述の富士塚とその上にそびえる東京スカイツリーを遠望する絶景である。

ところが開催当日は夕方から雨が降り出して待望の仲秋の月を見ることが出来なった。それにもめげず三座に分かれた連衆は聞し召しながら、それぞれの作品を巻き揚げた。帰宅した頃にようやく雲の切れ間から月が顔をのぞかせたが、花は盛りに月はくまなきを観るものかは、と言われてもいささかの残念ではあった。次回は満月下の俳諧をおおいに期待するところである。

     伊豆石の貌のとりどり秋の風    あき子

     築山を刈るバリカンの音の澄み   桜千子

     月や良しガイドの声に亀も寄り   転 石

     月今宵むかし文佐の夢のあと    秀 樹