連句とは

連句とは、最初の(五・七・五を長句という)に対して、その情景から次の脇句(七・七を短句という) を想像する連想ごっこです。それは幼い頃の尻取り遊びのように、出来るだけ素早く応じて、前の句とは関連があるが、しかも全く違う内容の句がよいのです。そして、何人かで、長句と短句を交互に繰り返すわけ です。この問答風の文芸は、六百年も前から伝わってくるうちに、いくつかの約束事(式目)ができましたし、 形式も三十種類ほどあります。連句の楽しみの大部分をなすのは、連想飛躍によって思いもかけない別世界が繰り広げられることです。芭蕉も「俳諧は三十六歩の歩みなり、一歩もしりぞくこと無し」と述べていますが、歌仙三十六句を足 取りにたとえ、後へ戻ることなく前と同じ情景を避けて、新しい局面を展くように前進しなさいと教えています。

歌仙・半歌仙

昔の歌人三十六歌仙に因んだ名で、芭蕉の頃に広まり、今も基本的な形式です。数ある形式も、これに準 じた長短の差に過ぎません。  当時は奉書を横長二つ折りにして、これを折と呼び、二枚を水引で綴じて使ったところから、懐紙形式と もいわれます。一枚目は一の折(初の折)。二枚目が二の折(名残の折)で、一の折は表(略号オ)に六句、裏(ウ) に十二句。名残の折は表(ナオ)に十二句、裏(ナウ)に六句を書きます。  三十六句の間に、(無季)の句を挟んでは、四季折々に、二花(桜)と三つの月を詠むのです。気の合う 何人かで、代わる代わるに長短の句を付け進めることを、連句を巻くといい、その仲間(連衆)が、互いに句案を 助けたりします。実作では次にあげるような約束事がありますが、オーケストラの指揮者のような役わりの 捌きに従えばよいのです。まずは楽しんで下さい。

1. 発句は、一巻の連句を率いるにふさわしい品格のある長句を選ぶこと。

2. 脇句は、発句と必ず同季・同場・同時の短句。体言止めのほうが納まりがよい。発句と脇句で短歌の ような世界を作ること。

3. 第三句は、変転の始まり。思い切った連想、飛躍の長句を。第三句だけが特別に、下五を、して、 て、に、にて、らん、もなし、の語で留めること。第三句目の季節は、発句が春・秋なら同季に。発句が新 年なら春。発句が夏または冬なら無季で。

4. 第四句以降は四季を折り込み筋書きのない絵巻物を楽しく繰り広げていきます。絵巻は序破急を尊びますので、静かな出だしとし、最後は穏やかにまとめます。一巻の最後の句は挙句と呼ばれ「挙句のはて」 の語源となりました。  初の折だけで止めても完成した形式で、歌仙の半分、つまり半歌仙ができます。作品は懐紙に筆で書き、水引で千鳥掛に綴じると、伝統の懐紙形式の佳さも味わえます。懐紙は奉書 を横二つ折りにしワサを下に使います。ただし仏事にはワサを上にします。

歌仙式目

 

『俳諧歌仙順序手引』(芭蕉堂刊)

以下、諸形式を参考までに簡略に記します。古くは両吟千句や矢数俳諧と称する万句を超えるものも行われました。

1. 百韻  四折 百句 四花七月 初の折   表八句 (七句目月) 裏十四句 (九句目月、十三句目花) 二の折 表十四句 (月)     裏十四句  (月、十三句目花) 三の折   表十四句 (月) 裏十四句  (月、十三句目花) 名残の折  表十四句 (十三句目月)   裏 八句  (七句目花) 昔は百韻を五巻揃える五百韻や十巻の十百韻(とっぴゃくいん)も行われました。

2. 八十八興  四折 八十八句 四花七月 表八句(七句目月) 裏十二句(七句目月、十一句目花) 二の表十二句(十一句目月) 二の裏十二句(七句目月、十一句目花) 三の表十二句(十一句目月) 三の裏十二句(七句目月、十一句目花) 名残の表十二句(十一句目月) 名残の裏八句(七句目花)

3. 七十二候  三折 七十二句 三花五月 百韻のうち三の折を除いたもの

4. 易(えき) 三折 六十四句 三花五月 八十八興より三の折を除いたもの

5. 源氏   三折 六十句 三花五月 表六句(五句目月) 裏十二句(七句目月、十一句目花) 二の表十二句(十一句目月) 二の裏十二句(七句目月、十一句目花) 名残の表十二句(十一句目月) 名残の裏六句(五句目花)

6. 五十韻  二折 五十句 二花四月 百韻の初折と二の折を合わせたもの

7. 長歌行  二折 四十八句 二花三月 表八句(七句目月) 裏十六句(九句目月、十五句目花) 名残の表十六句(十五句目月) 名残の裏八句(七句目花)

8. 世吉(よよし) 二折 四十四句 二花三月 百韻の初折と名残の折を合わせたもの

9. 二十八宿  二折 二十八句 二花二月 表六句(五句目月) 裏八句(七句目花) 名残の表八句(七句目月) 名残の裏六句(五句目花)

10. 短歌行   二折 二十四句 二花二月 表四句 裏八句(裏移り一句目に月、七句目花) 名残の表八句(七句目月) 名残の裏四句(三句目花)

11. 箙(二十四節) 二折 二十四句 二花二月 表六句(五句目月) 裏六句(五句目花) 名残の表六句(五句目月) 名残の裏六句(五句目花)

12. 二十韻  二折 二十句 一花二月 表四句 裏十句 名残の表六句   名残の裏四句 「猫蓑」の東明雅創案。

13. 十八公  一折 十八句 一花一月 表十句(九句目月) 裏八句(七句目花)

14. 半歌仙  一折 十八句 一花二月 表六句(五句目月) 裏十二句(八句目あたり月、十一句目花)

15. 首尾吟  一折 十六句 一花一月 表八句(七句目月) 裏八句(七句目花)

16. 歌仙首尾 一折 十二句 一花一月 表六句(五句目月) 裏六句(五句目花)

17. 表白 (十四句~十二句)懐紙の初折の裏ばかり

18. 裏白 (八句~六句) 懐紙の初折の表ばかり

19. 表合(おもてあわせ) 百韻(八句)・歌仙(六句)の中に、表に嫌うものも詠みこみ一巻の変化をはかるもの。

20. 三つ物 (三句) 発句・脇・第三句の三句をいう。江戸時代から歳旦の祝詞として詠む習わしが生じ、明暦(一 六五五~五七)ごろから大流行となり、歳旦開きという行事までもが行われた。三句のう ち、月・花また神祇・釈経・恋など何を詠んでもよい。

昭和四十年代ごろから、連句復興の兆しが現れると、さまざまな新しい形体の模索が行われました。その 主なものを列挙します。

・胡蝶  二十四句 一花二月 表六句(五句目月) 中十二句(十一句目月) 裏六句(五句目花)  うちこし、去り難いなど、できるだけゆるやかに、現代人の俳句を。林空花創案。

・蜉蝣(かげろう) 二十八句 二花二月 表六句(五句目月)    初折表(3・3) 裏八句(七句目花)    初折裏(4・4) 名残の表八句(七句目月) 名残表(4・4) 名残の裏六句(五句目花) 名残裏(3・3) ダブルソネット。二十八宿とほぼ同じ。札幌「俳諧寺芭蕉舎」の窪田薫創案。

・ソネット 十四句 一花一月 ソネット(十四行詩)の行数を4・4・3・3の4章に分け、各章にそれぞれの季を入れ る。「杏花」の珍田弥一創案。

・存風連句 二十一句仕立ての三部構成、月花季にこだわらず懐紙形式を外し、提示部四句、展開部十二 句、終結部五句、挙句にもう一句短句を重ねる。「存」村井和一創案。

・居待  十八句 一花一月 表裏なし。月五句目。花十七句目。 居待の月のかわりに雪またはほととぎすを入れたものを 「出花」という。「連句かつらぎ」岡本春人創案。

・十二調 十二句 一花一月(花はどの季の花でも可) 季の句六句、雑の句六句。挙句が雑でも可。岡本春人創案。

・十八韻 表六句(五句目月) 中六句(五句目月または雪等)  「あした連句会」宇咲冬男創案。  以上は古典的な基本形体の「百韻」や「歌仙」を現代風に工夫した新形式。ここに挙げ切れない程他にも あります。

非懐紙形式

伝統的なものは、懐紙の折が基本です。「白燕」の橋閒石が提唱した非懐紙は、式目や折にこだわらず長さは自由、月花の定座もありません。歌仙等の懐紙形式が、羽織、袴の正装とすれば、非懐紙の連句 は着流しのようなものです。着流しは感性しだいで野暮にも粋にもなり、正装より難しい。そこでしっかり と連句の本質をわきまえて、帯だけはちゃんと締めておかねば、さまになりません。 具体的には季の扱いを無神経にせず、やはり春秋三~五句、夏冬一~三句続け、季移りにも注意してくだ さい。