連句とは
連句とは、最初の句に対して、その情景から次の句を想像する文芸です。
それは幼い頃の尻取り遊びのように、出来るだけ素早く応じて、前の句とは関連があるが、しかも全く違う内容の句がよいのです。そして、何人かで、長句と短句を交互に繰り返します。この問答風の文芸は、六百年も前から伝わってくるうちに、いくつかの約束事(式目)ができました。形式も三十種類ほどあります。連句の楽しみの大部分をなすのは、連想飛躍によって思いもかけない別世界が繰り広げられることです。
芭蕉も「俳諧は三十六歩の歩みなり、一歩もしりぞくこと無し」と述べていますが、歌仙三十六句を足 取りにたとえ、後へ戻ることなく前と同じ情景を避けて、新しい局面を展くように前進しなさいと教えています。
ここで、国文学者・俳人で信州大学名誉教授であられた東明雅氏が著された
俳文学辞典に掲載の「連句」に関する説明文をご紹介いたします。
連句
[名称] 連句の名称は、江戸時代にも発句と区別した意味でかなり広く用いられたが、当時は俳諧(誹諧)、正しくは俳諧之連歌の名で呼ばれるのが一般的
であった。明治二十年代、正岡子規が俳諧革新を行ったころ、発句の代わりに俳句と呼び、俳諧の代わりに連俳・聯俳・連句・聯句などの語を用いたが、明治三十七年(1904)九月の『ホトトギス』誌上に、高浜虚子が「新連句論」を掲載して以後、連句という語が一般に定着した。
[形態] 連句は五・七・五の十七音から成る長句(奇数句)と、七・七の十四音から成る短句(偶数句)とを交互に何句か連ねていくもので、すなわち、A句にB句を付け、そのB句にC句を付けるというふうに進展する。この場合、A句とB句とは同じB句に付いていながら互いに相違・変化があるようにしなければならない。A句を打越(うちこし)、B句を前句(まえく)、C句を付句(つけく)と呼ぶが、この打越と付句とが、同種・同様・同量にならないよう気をつけなければならない。打越の境地から別の方へと付句を変化させることを転じという。連句はこの付けと転じとが一巻を進行させるメカニズムである。打越と付句とが、類似した関係で前句に結びつくことを観音開きといい、打越・前句・付句が一続きの句境で変化しないことを三句がらみといって、ともに嫌われる。連句独自の式目・作法はいずれも、この同じものの反覆・渋滞を嫌うところから発生したもので、これが連句の最大の特色である。連句の発端の第一句(長句)を発句、次の短句を脇または脇句、三句目の長句を第三と呼び、四句目以下を平句(ひらく)、最後の短句を挙句(あげく)と呼ぶ。この発句から挙句までを一巻と呼び、百韻(一〇〇句)・歌仙(三十六句)などさまざまな形式があるが、一巻中には一貫したテーマはなく、自然や人事に関する事象・感想が連鎖的に並んでいるばかりである。さらに連句の独自な特色は、いわゆる座の文学であることである。一座する人を連衆(れんじゅ)といい、作品をつくる事を興行(張行)というが、このように複数の人によって文学作品が作られるのも珍しいことである。興行には一定の出句順による膝送りと、出句順が決まってなくて各自が出した句を宗匠が捌いてゆく出勝(でがち)とがあるが、さらに手紙などの通信手段で行う文音(ぶんいん)の方法もある。
[種類] 連句の付けについては、映画のモンタージュ論を援用する事によって
新しい理論づけがなされたが、それによる有力な付け方の提示はまだ乏しく、依然、俳論の物付(ものづけ)・心付(こころづけ)・匂付(においづけ)が生きているし、より具体的な手法としての美濃派の七名八体説も用いられている。これは転じにおける伊勢派の自他場の説(付方自他伝)依存とともに現代連句における支孝・北枝らの影響の大きさを物語っているものでる。式目においては、できるだけ俳諧の式目に準じて作ろうというのが従来の立場であったが、近年では式目よりは現代の作品ということに重点を置く連句も増えている。形式としても俳諧以来の歌仙(三十六句・二花三月)が中心であるが、時代・社会の変化とともに、さらに短い詩型が好まれるようになり、胡蝶(二四句・一花二月)・ソネット(一四句・一花一月)・居待(一八句・一花二月)・二十韻(二〇句・一花二月)・蜉蝣ダブルソネット(二八句・二花二月)などや、さらには俳諧の懐紙の理念にとらわれない非懐紙(一八〜二〇句くらい)も表れるに至った。
俳文学大事典 東明雅 平成7年より
参考文献
・連句の入門
連句入門 東 明雅 中公新書
連句入門 安東次男 筑摩書房
連句の楽しみ 暉峻康隆/宇咲冬男 桐原書店
連句への招待 乾 裕幸/白石悌三 和泉書院
連句への道 馬場春樹 中央大学出版部
次世代の俳句と連句 大畑健治 おうふう
連句そこが知りたい 五十嵐譲介ほか おうふう
連句実作への道 今泉宇涯 永田書房
現代連句入門 山地春眠子 沖積舎
ポケット連句 牛木辰男 考古堂
杞憂に終わる連句入門 鈴木千惠子 文学通信
・その他
連句芸術の性格 能勢朝次 角川書店
芭蕉七部集 白石悌三 岩波書店
日本古典文学全集 去来抄 三冊子 小学館
芭蕉の連句を読む 中村俊定 岩波書店
芭蕉連句全解 伊藤正雄 河出書房新社
芭蕉の恋句 東 明雅 岩波書店
連句恋々 矢崎 藍 筑摩書房
・連句歳時記と辞典
十七季 東 明雅ほか 三省堂
季寄せ 山本健吉 文藝春秋
季寄せ 平井照敏 NHK出版
連句辞典 東 明雅ほか 東京堂出版
俳諧大辞典 伊地知鐵男 明治書院
歌仙・半歌仙
昔の歌人三十六歌仙に因んだ名で、芭蕉の頃に広まり、今も基本的な形式です。数ある形式も、これに準 じた長短の差に過ぎません。当時は奉書を横長二つ折りにして、これを折と呼び、二枚を水引で綴じて使ったところから、懐紙形式と もいわれます。一枚目は一の折(初の折)。二枚目が二の折(名残の折)で、一の折は表(略号オ)に六句、裏(ウ) に十二句。名残の折は表(ナオ)に十二句、裏(ナウ)に六句を書きます。 三十六句の間に、(無季)の句を挟んでは、四季折々に、二花(桜)と三つの月を詠むのです。気の合う 何人かで、代わる代わるに長短の句を付け進めることを、連句を巻くといい、その仲間(連衆)が、互いに句案を 助けたりします。実作では次にあげるような約束事がありますが、オーケストラの指揮者のような役わりの 捌きに従えばよいのです。まずは楽しんで下さい。
- 発句は、一巻の連句を率いるにふさわしい品格のある長句を選ぶこと。
- 脇句は、発句と必ず同季・同場・同時の短句。体言止めのほうが納まりがよい。発句と脇句で短歌の ような世界を作ること。
- 第三句は、変転の始まり。思い切った連想、飛躍の長句を。第三句だけが特別に、下五を、して、 て、に、にて、らん、もなし、の語で留めること。第三句目の季節は、発句が春・秋なら同季に。発句が新 年なら春。発句が夏または冬なら無季で。
- 第四句以降は四季を折り込み筋書きのない絵巻物を楽しく繰り広げていきます。絵巻は序破急を尊びますので、静かな出だしとし、最後は穏やかにまとめます。一巻の最後の句は挙句と呼ばれ「挙句のはて」 の語源となりました。
初の折だけで止めても完成した形式で、歌仙の半分、つまり半歌仙ができます。作品を懐紙に筆で書き、水引で千鳥掛に綴じると、伝統の懐紙形式の佳さも味わえます。懐紙は奉書 を横二つ折りにしワサを下に使います。ただし仏事にはワサを上にします。
歌仙配置の一例
『俳諧歌仙順序手引』(芭蕉堂刊)
様々な形式
以下、諸形式を参考までに簡略に記します。古くは両吟千句や矢数俳諧と称する万句を超えるものも行われました。
百韻
四折 百句 四花七月 初の折 表八句 (七句目月) 裏十四句 (九句目月、十三句目花) 二の折 表十四句 (月) 裏十四句 (月、十三句目花) 三の折 表十四句 (月) 裏十四句 (月、十三句目花) 名残の折 表十四句 (十三句目月) 裏 八句 (七句目花) 昔は百韻を五巻揃える五百韻や十巻の十百韻(とっぴゃくいん)も行われました。
八十八興
四折 八十八句 四花七月 表八句(七句目月) 裏十二句(七句目月、十一句目花) 二の表十二句(十一句目月) 二の裏十二句(七句目月、十一句目花) 三の表十二句(十一句目月) 三の裏十二句(七句目月、十一句目花) 名残の表十二句(十一句目月) 名残の裏八句(七句目花)
七十二候
三折 七十二句 三花五月 百韻のうち三の折を除いたもの
易(えき)
三折 六十四句 三花五月 八十八興より三の折を除いたもの
源氏
三折 六十句 三花五月 表六句(五句目月) 裏十二句(七句目月、十一句目花) 二の表十二句(十一句目月) 二の裏十二句(七句目月、十一句目花) 名残の表十二句(十一句目月) 名残の裏六句(五句目花)
五十韻
二折 五十句 二花四月 百韻の初折と二の折を合わせたもの
長歌行
二折 四十八句 二花三月 表八句(七句目月) 裏十六句(九句目月、十五句目花) 名残の表十六句(十五句目月) 名残の裏八句(七句目花)
世吉(よよし)
二折 四十四句 二花三月 百韻の初折と名残の折を合わせたもの
二十八宿
二折 二十八句 二花二月 表六句(五句目月) 裏八句(七句目花) 名残の表八句(七句目月) 名残の裏六句(五句目花)
短歌行
二折 二十四句 二花二月 表四句 裏八句(裏移り一句目に月、七句目花) 名残の表八句(七句目月) 名残の裏四句(三句目花)
箙(二十四節)
二折 二十四句 二花二月 表六句(五句目月) 裏六句(五句目花) 名残の表六句(五句目月) 名残の裏六句(五句目花)
二十韻
二折 二十句 一花二月 表四句 裏六句 名残の表六句 名残の裏四句 「猫蓑」の東明雅創案。
十八公
一折 十八句 一花一月 表十句(九句目月) 裏八句(七句目花)
半歌仙
一折 十八句 一花二月 表六句(五句目月) 裏十二句(八句目あたり月、十一句目花)
首尾吟
一折 十六句 一花一月 表八句(七句目月) 裏八句(七句目花)
歌仙首尾
一折 十二句 一花一月 表六句(五句目月) 裏六句(五句目花)
表白
(十四句~十二句)懐紙の初折の裏ばかり
裏白
(八句~六句) 懐紙の初折の表ばかり
表合(おもてあわせ)
百韻(八句)・歌仙(六句)の中に、表に嫌うものも詠みこみ一巻の変化をはかるもの。
三つ物
(三句) 発句・脇・第三句の三句をいう。江戸時代から歳旦の祝詞として詠む習わしが生じ、明暦(一 六五五~五七)ごろから大流行となり、歳旦開きという行事までもが行われた。三句のう ち、月・花また神祇・釈経・恋など何を詠んでもよい。
新しい形式
昭和四十年代ごろから、連句復興の兆しが現れると、さまざまな新しい形体の模索が行われました。その 主なものを列挙します。
胡蝶
二十四句 一花二月 表六句(五句目月) 中十二句(十一句目月) 裏六句(五句目花) うちこし、去り難いなど、できるだけゆるやかに、現代人の俳句を。林空花創案。
蜉蝣(かげろう)
二十八句 二花二月 表六句(五句目月) 初折表(3・3) 裏八句(七句目花) 初折裏(4・4) 名残の表八句(七句目月) 名残表(4・4) 名残の裏六句(五句目花) 名残裏(3・3) ダブルソネット。二十八宿とほぼ同じ。札幌「俳諧寺芭蕉舎」の窪田薫創案。
ソネット
十四句 一花一月 ソネット(十四行詩)の行数を4・4・3・3の4章に分け、各章にそれぞれの季を入れ る。「杏花」の珍田弥一創案。
存風連句
二十一句仕立ての三部構成、月花季にこだわらず懐紙形式を外し、提示部四句、展開部十二 句、終結部五句、挙句にもう一句短句を重ねる。「存」村井和一創案。
居待
十八句 一花一月 表裏なし。月五句目。花十七句目。 居待の月のかわりに雪またはほととぎすを入れたものを 「出花」という。「連句かつらぎ」岡本春人創案。
十二調
十二句 一花一月(花はどの季の花でも可) 季の句六句、雑の句六句。挙句が雑でも可。岡本春人創案。
十八韻
表六句(五句目月) 中六句(五句目月または雪等) 「あした連句会」宇咲冬男創案。 以上は古典的な基本形体の「百韻」や「歌仙」を現代風に工夫した新形式。ここに挙げ切れない程他にも あります。
非懐紙形式
伝統的なものは、懐紙の折が基本です。「白燕」の橋閒石が提唱した非懐紙は、式目や折にこだわらず長さは自由、月花の定座もありません。歌仙等の懐紙形式が、羽織、袴の正装とすれば、非懐紙の連句 は着流しのようなものです。着流しは感性しだいで野暮にも粋にもなり、正装より難しい。そこでしっかり と連句の本質をわきまえて、帯だけはちゃんと締めておかねば、さまになりません。 具体的には季の扱いを無神経にせず、やはり春秋三~五句、夏冬一~三句続け、季移りにも注意してくだ さい。